レディオヘッドといえば、伝説の2003年のサマー・ソニックのアンコールで歌われたこの曲、『Creep』がまず一番に思い浮かびます。私は初来日を果たした再結成ドアーズを観るべく、このサマソニに参戦していたのですが、オリジナルメンバーはギターのロビー・クリーガーとキーボードのレイ・マンザレクのみ。しかも演奏はヨレヨレで何の感動もないパフォーマンスで、それはただ長年のファンとしての責任感から「行った」という事実を得ただけのものでしかありませんでした。アンコールの『ハートに火をつけて』でセットリストが終わったことを確認した私は、彼女(現妻)がいるマリンスタジアムにダッシュで直行。彼女はレディヘのファンだったので、別行動をしていたのです。スタジアムに着いてみると、同時終了で終わっているはずがまだ演奏中。「ラッキー!アンコールくらい聴けるかも」と考えた私はスタンドの階段を駆け上がって、比較的人の少なめな内野席最上段に陣取りました。その瞬間です、この曲のイントロが流れてきたのは・・・。

 特にレディヘのファンでもない私でもこの曲は知っていたので、「おお、超有名曲のこの曲がアンコールか、ベタなことやるなあ」などと悠長に聴いていたのですが、周りにいるレディヘのファンの様子がどうもおかしいのです。みんなぐしゅぐしゅと鼻をすすっていたり、ポカンと口を開けたままステージを眺めていたり、悲鳴とも嗚咽ともつかない奇妙な絶叫を叫んでいたり、顔を覆ってオイオイ泣いている女の子もいました。その一種異様な光景とサマソニの終焉を彩る花火を見ながら、このパフォーマンスがとても素晴らしいものだと確信、その反面、ついさっきまで「なんちゃってジム・モリソンとヨボヨボなジジイたち」をやらかしていた再結成ドアーズに、ふつふつと怒りが湧いてくるのを抑えられなかったのを覚えています。

 その後、スタジアムの外で彼女と合流しましたが、そこでもあちこちで口々にこの夜の出来事を語る姿を見ることができました。興奮気味に携帯で誰かに早口でまくしたてる人、抱き合って泣いている女の子たち、押し黙ったまま俯いて歩く男の集団、呆然と座り込んでいる数人のグループもいました。その光景の異様さに私と彼女は押し黙ったまま、幕張海浜の駅に着くまであえてこの話題に触れようとしませんでした。彼女によるとアリーナはもっとすごくて、絶叫と動揺と感動と合唱が渾然一体となって波のように蠢いていたそうです。

 どうしてこの2003年のサマソニの『Creep』が伝説なのか、ファンはもちろんご存知のはず。私も後になってこの「封印」の事実を知り、とても幸運だったんだなあ、と改めて思っています。ちなみに昨年(2016年)のサマソニにもレディヘが来日、再びこの『Creep』を演奏しました。でもレア度という点では2003年の方が上、というのが一般的な評価のようです。